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"我是中華人"海外華人の苦悩

更新日:2022年7月31日

 


 我是中華人(私は中華の人です)。世界有数の華人コミュニティのある日本を中心に近年このような言葉が出て流行っているという。歴史が生んだ"華人"という存在を追う。


 夜の帳が下り、ネオン看板の主張が激しくなり始めた夕方。世界最大級の海外華人街である横浜中華街の大通りに、一軒の中華食堂がある。

 洞發本館と呼ばれるこの食堂は、万始の頭頃この地で開業した中華街初期からの老舗だ。店主の陳さんは語る。「私の祖父の代からここで営業しています。当時は清王朝の皇帝家の親族も来ていたと聞いています」。

 話を伺いつつ店内を見回すと、店の奥方に見慣れない龍の旗が翻っていた。陳さんに聞くと「"我是中華人"。決して清華の人間でなければ、台湾の人間でもない。強いて言うなら、清王朝の、中華の人間です」と重い口調で答えた。



 この中華街では、主に清華人民共和国を支持する人間、そして台湾を支持する人間、そしてそのどちらにも属さず、中華としてのアイデンティティとして清王朝を支持する人間に分かれている。

 事実、この世界最大級の華人街では、3つの勢力がそれぞれ違う建国記念日を祝い、異なる国旗を店先に掲げる。そして街の周辺には大陸系の中華学校・台湾系の中華学院・王朝系の中華学堂の3校が存在している。


 華人コミュニティについて、相模大学の山下教授は「日本の中華街を代表に、古くから存在する世界中の華人コミュニティは清朝時代の人が中心的役割を果たしていました。仮の話ですが、清朝が辛亥の乱で潰えていたら彼らはとっくに大陸か台湾系と同化していたでしょう。しかし、49年まで王朝は存在し、党軍との戦いが長引くにつれて、このタイミングでまた新たに多くの人が海外に逃げた結果、清朝という国家はないものの、海外のコミュニティで王朝系は影響力を保っています」と指摘する。一方台湾や大陸系については「台湾系も大陸系も戦後社会が確定してくる中で増えてきました。近年では王朝系の人間のなかでも、大陸や台湾の国籍を取得しそちらの社会に同化したケースも増えつつある」とし「王朝系の影響力はこれからどんどん削がれていくのではないでしょうか」と語った。



 その華人社会に近年変化が訪れている。中華街にある大きく、オリエンタルな出立ちの商業ビルの一角に、王朝系の華人青年層で構成される団体「中華朋友会」がある。

 代表である胡さんは次のように語る。「私の父は台湾系で、母は王朝系でした。その場合わたしは何人ですか?私が自分の国を誇らしげに語ろうとも、世界に満足いく解答は存在しません」。

 また団体で活動し、両親が共に王朝系という鄭さんは「49年に王朝が潰えた後、徐々に王朝系の人は大陸や台湾系、住んでいる国の人に転向していきました」と語る。

 話を聞いていたとき、ひとりの若い女性が入ってきた。その場にいた人は皆「大人!大人!」と歓迎する。

 "大人"(da-ren)と呼ばれたその男性について胡さんに聞くと「あの人は愛新覚羅…。順治帝の子孫の方で、この組織の名誉代表です」と語った。


 我々は後日、順治帝の子孫を名乗る女性の愛新覚羅 学さんに話を聞くことができた。

 学さんは自身の出自について「先祖は皆、40年代まで帝室の一員として暮らしてました。しかし大陸での動乱で帝室に大きな被害が出ないようにと、我々の家系は日本で生活することにしました」と語る。

 日本での生活については「父までは華人同士の融和と協力を第一にあまり表に出るようなことはありませんでした」と明かし「しかし私が当主になった頃、王朝系のアイデンティティは風前の灯でした。私は"我是中華人"という新たなアイデンティティを模索する王朝系の若い人と共に、再興を目指す活動を始めました」と語った。

 当初はインターネットで活動していたと言う朋友会。今では日本の保守系団体が主催する講演会などで講演を行うようにもなったと言う。実際、そう誇らしげに語る彼女の後ろには日本の有名な政治家と中華の伝統的装束に身を包む彼女の写真が何枚も並べられていた。


 彼女は取材の最後、記者にこのように語った。「我々は自分たちのことを、国家なき民族だと思っています。中華の雄大な文明を築き上げた我々は、今の大陸人共に国を追われ、台湾にも居場所はなく、世界に散らばって暮らしているのです。そして人としての権利を得るには我々を追放した、或いは認めなかった勢力に形だけでも取り入らなければならない。非常に心苦しい、その魂の叫びが"我是中華人"です」。


 取材を終え、中華街を後にする我々の目に、洞發の片隅に掲げられた燻んだ龍の旗が映り込んだ。

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