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インドネシア史上最大の軍事パレードを振り返る



 8月17日。インドネシアで最も大きく、また、全民族、宗教が共に祝う同国にとって数少ない特別な日だ。1945年のその日に国父スカルノが日本軍の前田少将邸で独立宣言を読み上げた。

 これまで、同国の軍事パレードは二回あった。独立記念日の小規模なものと、休日でもない国軍創設記念日にひっそりと行うものだった。今回、国軍を重視するアブド・ソイセノ首相はこの内国軍創設記念日の軍事パレードを廃止し、更にパレードの予算も増額した。こうして、今回の独立記念式典、もとい軍事パレードは実現した。


 アブド・ソイセノ首相は強権姿勢であると言われて久しい。去年のパレードがテロで中止に追い込まれたため、今回は同氏にとって初めてのパレードである。それだけに、良くも悪くも先の読めない、科学者あがりの奇人政治家であるアブド・ソイセノ氏の発言は注目されていた。今回の演説は、アブド・ソイセノ氏本人にとっても内外に今後の方針を打ち出す重要なものと位置付けている節があり、そこには“奇人”を読み解くヒントが多くあるように思えた。


 多くの専門家が予想した通り、国威発揚のためか全体主義的な発言を行った。特に今回アブド・ソイセノ氏が連呼し、強調していたのは“一つ”という言葉である。首相は演説の冒頭、本人と党の自認する“豊かな国”像、党是である“強いインドネシア”像について語った。その中で、豊かな国とは即ち強い国であり、両者は相互関係であると強調して、「そして強い国とは必ず、様々な者が一つの旗、一つの紋章、一つの国家を愛して一つになることだ。」と発言していた。まだ実現していないが、先月末に発表があり、恐らく近いうちに実現されると思われる“国旗・国章の一元化に伴う地方政府の旗・紋章の廃止”政策を、既に実現済みかのように示している。社会学者で政治学者で心理学者のマハー・セパー・バガバクサカ氏によると、これは首相のどんな手段でも絶対やり遂げるという宣言であり、自信の表れであるという。また、“一つ”を強調する演説に同氏は「まさしく本来あるべき姿のインドネシアに戻りつつあると言えます。首相が意識したと思われる1928年の所謂“青年の誓い”では“一つ”を強調していました。これを良く言えば国是である“多様性の中の統一”ですが、悪く言えば全体主義でしょう。首相は先日も事実上の緩やかな情報統制体制である“国家メディア協会”を発足させ、いつでも不用意で敵対的なメディアの首を絞める体制を整備しました。心配ではあります。」と語った。


 また、パレードを行進する国軍にも呼び掛けて演説し、国軍の解体を叫ぶ思想の者がいる程の立場低下を憂慮した上で、「よくよく考えてみて欲しい。諸君ら国軍がもしいなかったとしたら、国はどうなる?三億国民は一人残らず死ぬか植民地支配の圧政の下に置かれ、いい思いなんかすることはまずないだろう。植民地支配の苛烈さというのは、教科書で習っている通りだ。」と国軍あっての平和を強調した。そして国軍は恐怖と殺戮の象徴ではなく、“平和の使者”であると位置付けた。これについてマハー・セパー・バガバクサカ氏は「アブド・ソイセノ首相は国軍を重視する立場を長年取っています。彼らが“平和の使者”であるため、彼らを管轄する文民組織の“軍事省”を“平和省”に改名する方向で動いているというのは、先日報道されたばかりです。狂気じみているとは思いますが、“国防省”が戦争を仕掛ける国もありますし、これはこれでインドネシアらしくて良いのではないでしょうか。戦争を平和と思わないでは欲しいですが…。国軍を重視する首相は、ウェカ政権以来の立場低下を嘆いているので、立場の向上を目指すでしょう。幾ら国軍が力を持ったところで、宣伝情報省という大スパイ機関がある以上、政府は安泰ですから。」と分析した。


 東南アジア随一の軍隊を持つ同国での史上最大の軍事パレードとは言え、まだまだ装備は発展途上だ。多くのメディアと人々は、ピンダッド製の初の純国産ミサイル“トリシューラ”(trisula)に夢中であるが、軍事評論家のマハー・セパー・バガバクサカ氏は、度を越した大量生産でしばしば批判された、テュルキイェとの共同開発戦車ハリマウ・スマトラ(harimau sumatra)に着目した。同氏は、「インドネシアはテュルキイェのように軍事産業で一儲けしようという方針があります。最近、アブド・ソイセノ首相は“国軍の現代化”と銘打って兵器の純国産化計画を打ち出しました。かつて、清華のミサイルを大量生産したことによってその製造技術が向上し、今回のトリシューラが開発出来たという経験があります。今は共同開発の様々な制約に縛られていますが、大量生産によって製造技術は大幅に向上しているはずですし、いずれ純国産戦車を大量生産して発展途上国を中心に売り捌くのではないでしょうか。」と今後の政府の思惑を分析した。


 今回の来賓では、米国の要人の参加は無かったのが印象的であった。アブド・ソイセノ首相の所属するクアト党は、ドゴロニデ前政権の前進共和党時代から親欧米方針を貫いており、インドネシアは東南アジア諸国で珍しく清華の一帯一路には参加していない。演説でも「米国を中心とした世界の様々な国と連携し、インドネシアの需要を高め、世界になくてはならない存在になった時、真の“強いインドネシア”は完成する。」と、あくまでも米国に追随する方針を強調していた。これについては専門家も首を傾げており、米国政府との間で何らかの軋轢があるのではと考える者もいた。


 強権的な姿勢を強めるアブド・ソイセノ首相。米国を抜く勢いの人口増加を見せ、世界第四位の人口を抱える大国は、一体どこに向かっているのだろうか。

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