【2022年8月20日 LFP】フランス帝国はこれまで『ナポレオン』の名を7代にわたって継承し、200年にも及ぶ帝政の権威を体現し続けてきた。
第3代皇帝にして、現代の帝政の骨格を作ったナポレオン3世は、フランス皇帝を『革命の遺言執行人』と表現した。この言葉は、フランス皇帝が大革命の理念を象徴・擁護する存在であると定義しているのと同時に、1789年の大革命をもってフランスの革命を『最後』にするという皇帝の決意表明と捉えることが出来る。革命権の行使──すなわち権利擁護の最後の手段──を必要としない、安心が約束された社会を実現することこそ、フランス皇帝に与えられた運命的な役割なのかも知れない。
今月15日、ヨーロッパを牽引する大国の一つであるフランスが、歴史的な一日「新皇帝ナポレオン8世即位」のときを迎えた。
老齢と膀胱がんにより職務が難しくなり、退位を表明してからはや1年が経過しつつあるなか、ナポレオン8世の即位により完全に皇帝の座を退くことになったナポレオン7世は、この日を最後に今後の余生を「太上皇帝」(Père de l'empereur)として過ごすことになった。加えて「ナポレオン8世」の長男にあたるシャルル=ナポレオン王子は、新たに皇太子として重要な役割を担う立場となった。
新たに即位したのはことし3月に国民投票で70%以上の賛同をもって歓迎されたジョゼフ・ナポレオン皇太子。皇太子は名門校リセ・シャルル・ド・モルニー、パリ・サン=クルー大学、高等研究実習院を修了したあと、皇帝の公務を支えつつ、フランス帝室の財産を運用する「ナポレオン財団」の総裁として活動。慈善事業に積極的な皇太子は福祉を重視し、とくに女性や子供、障がい者の権利を擁護してきたこともあって、国民からの人気は高い。
一方で、その積極的な姿勢は政治分野へも向いている。新たな皇帝は、皇太子時代から一貫して帝政を熱心に支え、議会政治の縮小を訴える現与党「人民への訴え」に属する政治家たちをを臆することなく支援してきた。先代皇帝のナポレオン7世が象徴としての役割に徹し、政治への介入を忌避してきたのとまったく対照的である。
ナポレオン8世は、議会が特殊利害(いち地方や階級といった特定の利害)のみしか代表できず、純然に一般利害(「フランス人」に普遍的に共有される巨視的な利害)の代表者たり得るのは皇帝に他ならないという、オーソドックスな「皇帝民主主義」の考え方を持っており、一部の世論ではこうした思想を専制主義として忌避する声も小さくない。新しい鷲に与えられた政治的役割は、そうした懸念を払しょくすることから始まることになるだろう。
インターネットやIT事業の発展により、産業形態や社会のありようが全く変わろうとしている、いわば第三次産業革命の最前線で、フランスの「いま」は大きな動揺を迎えている。経済的には、2010年代に相次いで起こった金融危機から立ち直る最中であり、慢性的な高失業率と格差社会、経済の停滞感は若者に途方もない絶望感を与え、急進思想に傾倒させる根本的な原因となっている。政治的には、モンタニー法問題が国民投票で否定されたことにより、人工妊娠中絶にまつわる問題が再燃、命をめぐる価値観の問題がフランスの分断を深めている。こうした暗い状況の中で、かつての皇太子は自らが国民の希望にならなければならないとの使命感をたびたび口にし、国民に語り掛ける機会を数多く設けてきた。国民の間に広がる皇太子人気は、本人のそうしたお節介焼きな気質に由来する側面もある。
戴冠式は「ナポレオン祭典」の日でもある15日、パリのノートルダム大聖堂で、各国首脳や帝室の臨席の元、厳かに行われた。
式典にはカトリック教会の長であるグレゴリウス17世教皇も臨席したが、フランス革命の理念を継承する歴代「ナポレオン」の伝統にもれず、自らの手で戴冠を行った。ようすはエトワール広場に設営された会場に共有され、パリでは市民の多くがシャンゼリゼに繰り出す様子が見られた。午後には軍事パレードやセレモニーが開かれ、世界中の国々から集結した要人と共に鑑賞した後、晩さん会を楽しんだ。式典に参加した首脳陣の面々はさながらサミットのような様相を呈していた。米国のネルソン副大統領や、華国の王主席、日本からも新渡戸執政が参加したほか、メキシコや東洋、インテルマリウムからも首脳陣が参席、フランコフォニー諸国の友好関係も垣間見える。
チュイルリーで開かれたセレモニーでは、新皇帝のスピーチの時間が設けられた。「演説好き」で知られるナポレオン8世だが、このときは口元を固く結んで、多くを語らなかった。
「この国は迷いの中にある。不安や怒り、暴力で動揺する世の中において、平和のために導く役割をボナパルトが担えることを光栄に思う。帝国には、大国として果たすべき責任がまだたくさんある。
気候変動や産業の転換、宇宙開発、海洋資源、IT。様々な世界がフランスを必要としている。いまこそフランスが連帯し、希望へ向かうときだ。France, encore rabat !(フランスよ、再び羽ばたけ!)」
〈ナポレオン8世即位記念式典に出席した各国首脳〉
教皇庁 グレゴリウス17世 教皇
米国 ロナルド・ネルソン 副大統領夫妻
華国 王遠平 国家主席
欧州連合 テオフィル=リュック・グランデ 大統領
英国 ジョー・ブルースター 首相
ドイツ クラウス・ブルーメンタール 連邦議長
イタリア ヴァネッサ・ベルトゥッシ 主席
日本 新渡戸倖生 執政
インテルマリウム エミリー・ダシェフスカ 大統領夫妻
アルタ・イタリア パンタレオーネ・フレスコバルディ 大統領
ローマ ジローラモ・ヴァンツォ 大統領
中部イタリア ジョバンニ・クリストフォロ 国王
ナポリ ジョアッキーノ5世 国王
ネーデルラント レオ・ファン・エッセン総督夫妻
メキシコ リカルド・エスピノサ 大統領
大韓民国 金考祥 国務総理
東洋連合諸州 リ・フイ・トン(李輝宗)政府主席
スリ・カンディ ラニル・バンダラナイケ首相 夫妻
タタールスターン ドゥマーギーン・ジャスライ首相
マーシャル諸島 ジェムソン・ネムラ 大統領夫妻
ミクロネシア連邦 キーラン・モーゼス 大統領夫妻
パラオ ザカリー・レメンゲサウ 大統領夫妻
オーストララシア連邦 ジョン・ホワイト 首相夫妻
ニウエ ヒマ・タランギ 首相夫妻
クック諸島 トム・ウィルソン 首相
ナウル マウ・ブラウン 大統領夫妻
(清華民国)
蒋富強 行政院院長 夫妻
〈その他来賓〉
ネーデルラント
マーリェン・マドゥロ外相
東洋連邦
セーンチャン・クンタニ 外務大臣
ティン・ハオ(静好) 大南国皇帝
グエン・フク・チュオン・ロン(阮福長䆍) 大南国皇太子
シソワット・ホア カンボジア王国女王
ヴィエン・イェオ・タム(袁要心) カンボジア王国王配(前政府主席)
ノロドム・ブッダポン カンボジア王国親王
ターンヤウォン・サワーン ルアンパバーン王国親王
チャオ・シ・モン・コン・サック・ナ・チャンパーサック 公爵
インドネシア
アブド・スロマコン外交大臣兼首相府次席報道官
カルヤティ財政大臣兼副首相
ツォンドロキロノ内親王 ハユ内親王
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